2005/02/20

2003年SARS発生にみる国際危機管理:今後の課題と対策

DC開発フォーラム/UNフォーラムの皆様、

WHO本部の早川です。かなり遅くなりましたが、昨年行われたジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)勉強会「2003年SARS発生にみる国際危機管理:今後の課題と対策」の記録がまとまりましたので送付させていただきます。ちなみに、本勉強会で紹介されているWHOのシチュエ-ション・ルーム(Strategic Health Operations Centre: SHOC)は最近のスマトラ沖大地震・インド洋津波被害への緊急対応の際にも使用されたということです。

早川元貴

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ジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG) 勉強会

「2003年SARS発生にみる国際危機管理:今後の課題と対策」

昨年11月22日のジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)勉強会は、世界保健機関でSARS対策の第一線で活躍されている進藤奈邦子先生(Communicable Diseases Surveillance and Response Department)を講師としてお招きして行われました。本勉強会では2003年のSARS危機への国際社会の対応、現在のSARS対策、SARSの事例から学ぶ国際危機管理のレッソンなどが取り上げられました。また、進藤先生には新設されたWHOのシチュエ-ション・ルーム(Strategic Health Operations Centre: SHOC)、を案内をしていただきました。

冒頭のプレゼンテーション及び質疑応答の概要は以下の通りです。

〈講師紹介〉

進藤 奈邦子 (しんどう なほこ)
平成2年 東京慈恵会医科大学卒、ロンドン大学セント・トーマス病院一般外科および血管外科、オックスフォード大学グリーンカレッジ、ラディクリフ・インファーマリー脳神経外科、慈恵大学病院脳神経外科にて研修。救急・集中医療に従事し、院内感染対策に携わる。平成5年より感染症内科、臨床細菌学を専攻。平成8年医学博士。平成9年ヒューマン・サイエンス財団リサーチレジデントとして国立感染症研究所感染症情報センター勤務。平成11年同主任研究官。感染症サーベイランス、インフルエンザ対策が専門。2002年5月よりWHO感染症部門アウトブレークレスポンスチームへ厚生労働省より派遣中。

〈プレゼンテーション〉

1. はじめに

2002年の11月に発生したSARS(重症急性呼吸症候群)は大きな経済的ダメージをもたらした。例えば、アジア開発銀行の調査によると、SARSの東、東南アジア経済への損害は123から284億ドルに上る。航空業界への影響は一年近くに及んだ。 モーガン・スタンレーは世界中で3億ドル、WHOはアジア地域で6億ドルという損害額を発表している。

SARSのような新興伝染病の発生は決して予測されていなかったわけではない。1960年以降、エボラ出血熱、ペスト?、コレラ?など30以上の新興伝染病の発生が世界各地で報告されており、その度にWHOでは対応をしてきている。

2. 国際保健の安全保障体制と伝染病対策

WHOの国際保健の安全保障体制はグローバル・パートナーシップに基づき、国際保健規約という法的枠組みが三つの柱(1.Contain known risks;2.Respond to the unexpected;3.Improve reparedness)に支えられる形で構成されている。

伝染病対策は2つ目の柱、Respond to the unexpectedに属する分野で、伝染病情報収集(Epidemic intelligence)、情報確認・照合(Verification)、リスク・アセスメント(Risk Assessment)、対応(Response)という過程を通して立案、施行される。

 情報収集の段階では、世界に広がる国際保健のネットワーク(WHO地域事務所、マス・メディア、各国保健省、研究機関、大学、NGO,)を通して伝染病の発生に関する情報が集められる。収集された情報は他の情報源との照会を通した確認が行われる。

収集された伝染病発生に関する情報の20%近くがこの情報確認・照合の段階で棄却される。残りの80%が次の段階であるリスク・アセスメントにてさらに詳しく検討される。

例えば2003年の記録では、636のOUTBREAK情報が察知され、そのうち80%は国によって確認され、13.5%は僻地または紛争などの理由で対応できず、残りの10%がただの噂であった。

リスク・アセスメントを通過したものには、伝染病の国際ネットワークGOARN(Global Outbreak Alert and Response Network)を通して発生勧告が発令され、具体的な対応策が施行される。

伝染病の発生勧告発令とそれに伴う対策施行におけるWHOの役割は120以上のGOARNのパートナーとのコーディネーションを通して迅速な技術支援を提供することである。専門家の派遣は24時間以内に可能。

2000-04年の間で、世界26ヶ国で計30件以上の伝染病発生が報告されており、40以上のGOARNパートナー機関、350以上の専門家がその調査、対策施行に参加している。

3. 2003年のSARS危機におけるWHOの役割

2003年3月に2回(香港、トロント)SARS発生の勧告を発令。WHO50年の歴史のなかで初めて旅行勧告(TravelAlert)を両都市に発令する。

極めて短期間で、SARSの国際監視システムの確立、オン・ライン・ネットワークの構築、国際ガイドラインの作成を行う。WHOのガイドライン、指導、情報を基に、各国が独自の対策を作成、施行する。

2003年2月ー8月にかけてWHOから計164人の専門家が中国本土、香港、台湾、ベトナム、フィリピン、シンガポールに派遣された。

発生報告から約4ヶ月間でSARSをコントロール、データをまとめて各国と共有する。

4. SARS危機対策からの教訓

グローバル・パートナーシップの必要性の再確認:SARSのような問題には国際レベルの対応が不可欠である。国レベルの対応では不十分。

グローバル・パートナーシップの構築、コーディネーションにおけるWHOのような国際機関の比較優位性の存在

国際法整備の重要性:現在の国際保健規約は改定される必要がある。未知の伝染病の発生に早急に対処できる枠組みではない。

OUTBREAkの対応においてはまずデータを収集して証拠を積み上げることが必要で、しかも短期間にやらなければならない。データがあって初めて当該国に専門家派遣の必要性を説得することができる。証拠主義に基づく対応の必要性。

コミュニケーション、コミュニケーション、コミュニケーション: WHOと各国政府、メディアと市民、省庁間(例えば、保健省と運輸省)におけるスムーズなコミュニケーションはSARS危機対策のかぎとなった。緊急時ということでWHOのメディア担当官が専門家レベルの会議に出席し、メディア向けのコミュニケ、トーキング・ポイントを独自に作成し、専門家チームの承認を得るという形態をとった。

〈参加者からの質問及びコメント〉

伝染病発生という緊急時でも国連機関ということでWHOからの調査チームは政府からの要請、承諾がなしでは派遣されることは出来ないのか。 -->現在の国際保健規約改定の議論の中でこの点は取り上げられている。

調査チーム派遣のタイミングをめぐる中国政府との交渉について。 -->中国政府の政権交代という大イベントとタイミングが重なったため、WHO側としても慎重とならざらる得なかった。結局、国内情勢の安定なしでは伝染病発生に十分対処できないということかもしれない。

緊急時における専門家の24時間以内の派遣する体制とはどのようなものか。 -->緊急事態に対応するためにWHO内部の行政手続きを一部簡略化した。コンサルタントのロスター制度に頼ることなく、世界中の120の組織・機関と協定を結ぶことで、専門家の確保を確実にした。WHOのミッションは2-12週間という比較的短期間ということも他の国連機関の派遣体制と比べて有利であるかもしれない。

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