2005/02/11

『現実の向こう』、『自我の起源』

UNフォーラムの皆さんへ

コロンビア大学SIPAの中村秀規です。たびたびすみません。

グローバルジャスティスの話を受けて、平和憲法、北朝鮮問題、国際援助・貧困問題、そして安保理改革といった事柄をどう考えるかについて、示唆的な本をご紹介したいと思います。グローバルジャスティスの投稿でも言及した、社会学者の大澤真幸さんの最新の著作です:

『現実の向こう』、春秋社

あとがきには、次のようなくだりがあります:

「私の議論の照準が合わされているのは、個々の提案そのものではない。ねらいは、それらを不可能なものに見せている枠組みや状況である。そうした枠組みや状況に変更を加えたいのだ。それは、ただ、一見不可能なことの現実性を証明することを通じてのみ、なしうるだろう」

ここでは内容をご紹介することは避けて、そのかわりに(お忙しい中、そして既に「積ん読」もたくさんあるであろう中で)読もうという気を触発するかもしれない個所を、引用します:

「人にはそれぞれ、自分にとって凄く大事なものがある。ある人にとっては、日に何回か礼拝することはとても重要かもしれない。ある人にとっては自由という理念にもとづいて生きること。ある人は金正日(キムジョンイル)の写真が凄く大事かもしれない。僕らが見ると、『なんであんな太っちょのおじさんがいいのかな?』と思ったりするんだけど、その人にとっては死活的に大事なんですね。」

「・・・ケーガンは『ヨーロッパはアメリカに守ってもらっているおかげで、楽園を享受できているのではないか』と指摘する。でも、この指摘は、ヨーロッパに対してよりも日本にもっとあてはまる。/そして、日本人のほとんどがこのことに気づいている。そのため、憲法をたいへんに利己的な法であると感じる傾向にあるように思う。『一国平和主義』という言葉は、そこから出てくる。平和憲法のもとではろくな国際貢献もできないということになる。そして、何より、アメリカに大きな負い目を感じてしまうのです。」

「では、アメリカでなく国連やその他の国際機関が行えばいいのか。それも違う。/ペルーにセンデル・ルミノソ(輝ける道)というゲリラがいる。このゲリラが国連の医療関係者や農業関係者を大量虐殺したことがある。しかも、ただ殺したのではありません。殺す前に自白を強要した。『私たちは帝国主義の一味です』と自白させ、それから殺す。/つまり国連とて完全に中立でない。ある意味、どこかの陣営にコミットしたものとしてしか現れない。中立を保つというのはつねに欺瞞になる。」


大澤さんは、比較社会学/社会システム論が専門で、難解な著作が多いですが、この本はとても分かりやすいです(それでもいくつか難解な個所があると感じますが・・・)。「枠組みや状況の批判的検討」という意味で、大澤さんの仕事はたいへんにすばらしく、ハーバーマスやローティをも批判的に乗り越えようとするその姿勢と能力を尊敬します。日本の文化を分有する者として、私は(英語/仏語/独語等を使いつつも、主として日本語で、日本にいながら仕事をされる)大澤さんのことを非常に誇りにも思います。


最後に、大澤さんの師でもあり、多くの日本人に勇気を与えつづけて来ているであろうもう一人の社会学者の著作もご紹介させてください。これは、直接に安保理改革などを論じているものではありませんが、根本的には同じことがらに照準していると言ってよいと思います:

『自我の起源 愛とエゴイズムの動物社会学』、真木悠介、岩波書店

真木悠介=見田宗介で、アーレントのworkとlaborの区別にしたがって、workをなすときには真木悠介を、laborを行うときには見田宗介を使われると何かで読んだことがあります。あとがきにある、次の個所が有名です:

「・・・だからこの種子は逆風の中に捲かれる.アクチュアルなもの,リアルなもの,実質的なものがまっすぐに語り交わされる時代を準備する世代たちの内に,青青(せいせい)とした思考の芽を点火することだけを願って,わたしは分類の仕様のない書物を世界の内に放ちたい.」


まだの方、「読んでみたい!」と思われましたでしょうか?もしそう思ってくださったら、これほど嬉しいことはありません。


中村秀規
コロンビア大学SIPA/MIA

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