2005/04/01

ジェフリー・サックス教授講演"The End of Poverty"概要

NYフォーラム、DCフォーラムの皆さんへ
(二重投稿ご寛恕ください)

コロンビア大学SIPA/MIAの中村秀規です。

3月31日、本学にて、コロンビア大学 The Earth Instituteのディレクターで、ミレニアム開発目標に関する国連事務総長特別補佐を勤めたジェフリー・サックス教授の講演The End of Povertyがありましたので、概要を以下にご報告します。本講演は講演タイトルと同名の著書の出版を記念して各地で行われているものです。30分強の講演は、刺激的で骨太の知識/論理によって構成されているというだけでなく、変革へのコミットメントと強い意志に貫かれており、600人以上の聴衆をempowerしたと感じました。

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0.要旨
私たちは極度の貧困を2025年までになくすことができる。その手段は単に可能であり実践的であり効果が証明されているというだけでなく、より良く実践することが可能である。そうすることができると知っている以上、「行わない」という選択肢はあってはならず、その実践は必然である。

1.極度の貧困の実際
現在、世界にはただ生存を維持するということのためだけに生活している人々がいる(およそ世界の人口の6分の1)。年間800万人の人々が治しうる病気や不栄養を理由として死んでいる。例えばマラウイはユニセフによって「申し分のない嵐」の中にあると呼ばれている。つまり、エイズ・マラリア・旱魃という破局に見舞われており、村に行けば、壮年層・子どもはエイズなどで死んでおり、高齢者と孤児たちにしか出会わない。ケニア西部では、診療所はどこも多数の患者を抱えるが、医療従事者も医療用具・薬品も不足しており、一つの寝台を大人3人と子ども3人が共有したり、感染症患者が一つの寝台に二人寝るといったことが常態となっている。エチオピアに行けば女性たちが1日のうち6時間を安全とは言えない水を運搬するのに費やしている。

2.診断
米国政府に極端な貧困をなくそうとしない理由を聞けば「アフリカには汚職があるから」と答えるだろう。しかしアフリカに極端な貧困が集中している理由として汚職にのみ注目することは間違っている。アフリカは開発を阻害する要因に規定されている。経済発展が可能となったアジアにおいてはそのほとんどの領域が農業生産に適する氾濫平原を持つのに対して、アフリカの96%は天水農業に依存せざると得ない。アジアにおいては緑の革命、すなわち高収量品種の適用が可能であったが、アフリカの土壌条件は化学/有機肥料によらずして革命をもたらさない。アフリカはその他の地域と異なり港湾や大洋に航行可能な河川から遠く離れた地域が多く存在する。これは高い輸送コストを意味する。世界経済からの隔離の傾向は消費と生産の双方において開発を阻害してきた。しかしこれらの貧困の罠は逃れうるものであって、問題はいかに問題解決に必要な資金を用意するかということである。

3.臨床経済学
私の妻は小児科医であり、私は多くを彼女から学んでいる。医師が患者から治療を依頼されて「あなたは腐敗しているから治療しない」とは言わないであろう。「臨床」という観点から経済開発を捉えれば、まずなすべきは「患者の言うことを聞くこと」である。妻は子どもの患者の話を聞くのに1時間をかけることもあると聞く。Earth Instituteではアフリカの各地で人々の話をし、議論をする機会を持ってきた。たとえばエチオピアでは次のような試みを行ってきている:人々による水資源管理、土壌栄養素管理、初等教育(学校給食を行うことによる出席率と生徒の達成状況の改善)、マラリア対策のための特殊仕様の蚊帳、エイズ対処薬(一投与量あたり30セント、拡大は容易なはず)、Earth Instituteによるセメントとワイヤだけを供与した後の人々による診療所の建設、ヘルスワーカーのトレーニングなど。こうしたEarth Instituteの活動は「依存」を助長するのでなく自立的発展を助長するのが意図である。また、医者が患者の一つの症状に対していくつもの原因を想定するのと同様に、臨床的に開発を行っていく上で、必要なものは経済学だけではない。理学、工学、農学、医学健康科学など、多くの知見が必要である。
しかるに例えばIMFのレポートに経済学以外の知見が盛り込まれたことはほとんどない。

4.先進国の役割
上記の診断とそれに基づく対処策は信じがたいほど低コストで実施可能である。すなわち2002年3月にメキシコ・モントレーにおいて先進国が(再確認し)コミットしたGDPの0.7%に相当するODAを供与するということである。これは米国などの、ODAに100倍する軍事支出と比較したときに、決して多大な支出ではないと言える。米国はモントレー・コンセンサスでコミットした額の4分の1しかODAを実施していない。多大の軍事支出はかえって世界を不安定化している。もっと前向きな支出に切り替えるべきである。先進国の人々がコミットメントを持ち、2025年までに極度の貧困を解消し、現在の分断された世界を癒すことは、可能であり、必然である。

5.質疑応答
(質問)汚職以外の要因も経済開発を阻害しているというが、それでも汚職も重要な問題だ。これについてはどうすべきと考えるか。
(回答)汚職は米国のみならず世界中に見られるものである。長期政権にその傾向があると言えるだろう。具体的には、開発協力にあたって盲目的なチェックを行わないことが重要だ。会計監査、職責にもとづく人材登用などの制度作りが必要である。英国首相のトニー・ブレアがアフリカについて語っているように、250億ドルの支援は効果的に吸収されうる。

(質問)技術革新の重要性をどう評価するか。
(回答)開発問題を解決する上で、根本的に重要な要素である。しかし(低い)人口密度の制約を受けていることも認識すべきである。我々はたんに昔に戻ればいいということではない。技術上のブレークスルーが必要である。「孤立」は極度の貧困と強く関係している。そうした中で携帯電話のもつ可能性は非常に大きい。トラック運転手、学校、診療所などに配備することで多大の開発効果が見込める。コンピュータも重要だが、まずは携帯電話の普及が重要
だろう。

(質問)米国政府の政策をどう評価するか。また政策に対する個人の影響力についてはどうか。
(回答)ブッシュ政権は何が重要かを取り違えている。「自由」を何度も使うが、「貧困」はほとんどスピーチに出てこない。しかし真の安全は開発の状態に依存している。また飢えている人々は「反政府武装兵士」になどなれない。米国政府の三重苦は国防、外交、および開発(Defense, Diplomacy, and Development)だと言われるが、前二者と開発とではまったく支出額が異なることを見落としている。最後に、米国の政策を変えていく上で、個人/市民による「活動/実践」は極めて重要である。

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