2005/06/09

人間開発か、経済開発か、ミクロとマクロの間

皆さん、在NY、ユニセフの久木田です。

最初に訂正をします。  佐藤寛編1996アジア経済研究所刊の書名は「援助研究入門」でした。新旧開発パラダイムの比較については第8章 「開発援助と心理学」を参照してください。

植田さん、吉野さん、安西さん、コメントありがとうございます。

植田さん、

経 済開発と人間開発は深く関わっていますが、開発の目的を人間開発とするか経済発展とするかでは、大きな違いがでてくるのではないでしょうか。何のための開 発かという一番大切な部分で、「人間開発のために経済開発が重要だ」という見方と「経済の発展成長のために人間への投資が重要だ」という見方には、明確な 価値観の違いがありますし、それに伴う開発へのアプローチも、ODAのあり方も、その結果得られる成果も大きく異なります。「経済中心の開発」と「人間中 心の開発」という視点から展開してきた二つアプローチは、それぞれに様々な側面での整合性をとろうとするため、独特の開発パラダイムを形成しているように 見えます。下に数年前に作った対照表をつけます。先にも書きましたが、この対比については、いろいろな反論や賛同をいただきました。極端な比較だ、人間開 発にバイアスがかかっている、経済開発でも参加型をやっている、など。いかがでしょうか。

吉野さん、

明快でバランスのと れたコメントありがとうございます。私の知りたかったWolfowitzを迎えての世銀の様子も臨場感ある報告で感謝いたします。ところで、ひとつ気にな るのは、「(経済)発展か、貧困削減か」というときの貧困の意味なのですが、貧困の定義が人間の能力の欠如と収入の欠如をあわせたものであるとするなら ば、これを対比するのは変な感じがします。貧困削減を人間開発と同義に使っているという見方もできますが。私も明確に使い分けてはいないので、自問も含め ての点です。

さて、私もマクロとミクロの間をどう調整し、特にミクロの効果を上げることによってマクロにつなげていくか、そしてそのシナ ジーを出していくかが大事だと思っています。私は下の二つの新旧パラダイムの対比はミクロとマクロの二つの視点での開発政策の対比とも言えると思います。 そして、この二つの大きく異なるパラダイム間のインターフェースをどのように作っていくのかが今の開発実務家の課題ではないかと思っています。このような 極端な比較をしたのもそこにくさびを打ち込みたかったからだともいえます。「マクロ経済政策を住民参加型でやっています」、というようなあやふや、竜頭蛇 尾、羊頭狗肉の説明では、この溝をうめることはできないのではないかと思うからです。マクロに強い国際金融機関とミクロに強い国連機関とのインターフェー スをどうするのか、個人的にはそこに興味があります。DCとNYの間をどうつなげるか、財務と外務をどうつなげるかにも関わってきますね。

安西さん、ダッカ以来ですね。おひさしぶりです。

経 済インフラの重要性については、ILOの上田さんが分かりやすく書いていたように、私もわかるような気がします。しかし、やはり開発協力の点からいくと、 ミクロとマクロへのインプットのバランスが悪いと思います。ミクロでの比較的小さなインプットで効果を上げること、まずは人間が元気になることで、マクロ も景気がよくなるというのが本来の形ではないかと思います。マクロ政策での重要な点は、ミクロでの改善も吹っ飛んでしまうような、政策の失敗や変更をしな いことが重要ではないかと思います。


表1.開発パラダイム新旧対照表
─────────────────────────────────
...................................新パラダイム.........................旧パラダイム
.................................(エンパワーメント型)............(ディス・エンパワーメント型)
─────────────────────────────────
目 標........................... 人間開発、基礎社会開発....経済成長、経済開発
イニシアチブ................ 住民が問題解決のため ......援助側が外交政策や利益のため
オーナーシップ.............住民、途上国政府.................一部官僚や援助側
開発プロセスへの責任..住民の自己責任..................援助側の官僚と納税者に対して
協力機関との関係性......パートナーシップ、平等........援助側と被援助側、従属
協力機関の役割............対話と自助努力の促進.........一方的な計画の遂行
優先事項の決定............住民による民主的な決定 .....専門家による一方的な決定
計画作成.......................住民による発展的計画.........専門家による青写真の作成
対象へのアプローチ.......統合的、相互補完的.............セクター、分野別、垂直型
実施支援組織 ...............民主的地域組織、NGO........専門家、統制的中央組織
実施形態.......................参加型、自主的.....................外部主導型、
コストの負担...................自己負担、小規模融資.........インセンティブ、報酬
実施のペース ................住民のペースで ..................予算の実施期間にあわせて
事業の規模・対象...........小規模、広範囲....................大規模、特定地域に偏在
利用する資源.................地域の人材と資源.................外部の資金、資材と技術者
技術の選択と使用...........適正な地域技術の適用........高度な外部技術の移転
評価 ..............................住民により継続的、頻繁.......専門家により短期、一回
評価指標.......................人間的・社会的指標 ............物理的・経済的指標
環境との関係.................調和的....................................制御的
ジェンダーへの配慮........高い、主流化促進................低く表面的、全くない
形成される心理状態.......自立性、自尊心の向上..........依存性、無力感の増加
形成される行動類型.......積極的相互作用.....................受動的、疎外、孤立
貧富、地域差、性差........縮小.........................................拡大
能力構築........................高い.........................................低い
持続可能性....................高い.........................................低い
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(出所)著者作成:一九九七年国際開発学会発表論文「新開発パラダイム概念化への試み」を一部改訂。至文堂刊、現代のエスプリ「エンパワーメント」特集1998年第376号に掲載。

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