2005/07/31

CAFTA米国下院議会通過

DC開発フォーラムおよびNY国連フォーラムの皆様

はじめまして。DC在住、ラテンアメリカ特に中米の民間セクター開発を専門としている菊地と申します。去る28日、米国下院議会をDR-CAFTA 自由貿易協定法案が、通過したので、同法案の内容、影響をまとめてみました。興味をお持ちの方は、目を通していただけますでしょうか。なお、添付したファイルのうち、CAFTA Summary は、米国貿易委員会のCAFTAレポート(202ページ)の要旨、CAFTAcomment1は、下記のコメントと同じものです。中米という地域的な問題をなるべくアジアに関心がある方にも、読んでいただけるものにしようと、腐心いたしました。


CAFTA米国下院議会通過

米国と中米5ヶ国および、ドミニカ共和国の自由貿易協定法案が、7月28日、米国下院議会にて、217票対215票の僅差で可決された。既に6月29日に同法案は、上院で可決されているため、8月一週に予定されている大統領の書名をもって、批准される。


I.今回の法案通過の意義

1)FTAA

米国議会貿易委員会のCAFTAレポートに指摘してあるように、米国にとっての今回の自由貿易協定は、発効したとしても、長期的に見て、大きな経済的な影響はないものと思われる。中米およびドミニカ(共)は、6ヶ国あわせて、米国にとって、輸出で12位、輸入で15位の相手であり、大きな貿易相手国ではない。しかも、既に80%の貿易品目は、各種の貿易優遇策で免税または、優遇税制のもと、米国に輸入されており、今回の自由貿易協定の影響は、一部の産業に限定される。むしろ、今回の協定は、FTAAを米国の主導権のもと、達成するための一歩としての意味が大きい。ブッシュ大統領も、この協定で「貿易」が、地域の生活を改善し、「民主化」に寄与し、ひいては、「米国の安全保障」に有益であるとして、議員を自ら、説得してまわった。

2)米国内の反対勢力対策

今次法案の主な反対勢力は、一部の農業品目輸出の盛んな州、および砂糖業界と労働組合であった。砂糖業界:オーストラリアやメキシコなど、一連の自由貿易協定において、強硬派と目されてきた砂糖業界は、米国のもっとも大きな政治寄付金拠出団体でもある。CAFTAレポートでも、砂糖業界を説得して、協定を受け入れさせるための記述が、多く散見された。実際、砂糖および砂糖加工商品の米国への輸入は、15年かけて、徐々に関税が下げられ、しかも、中米への割り当て量を課すというものであり、当面、米国砂糖業界は、保護される。労働組合:AFL-CIOは、CAFTAにより、米国内での労働が確保されないとして、FTAAおよび一連の自由貿易協定に表面上、一貫して反対を貫いてきた。しかし、米国の労働組合は、AFL-CIOにせよ、CALPERS(カリフォルニア公務員年金組合)にせよ、積極的に米国企業に株式投資し、ラテンアメリカを含む世界の金融市場にも投資しているため、表の反対表明ほどには、自由貿易による成長機会拡大に反対できない背景がある。そのため、組合内の強硬派と目されるトラッカーズなどの組合と指導部の間の溝が深まり、事実上、内部分裂していた。また、その一方で、AFL-CIOは、中米各国の労働組合と共同歩調をとって、CAFTAおよびFTAAに対しての圧力をかけることも、模索していた。しかし、これも、米国労働者の権利拡大を求めるAFL-CIOと、米国の労働者に比べ、劣悪な中米の労働者の労働条件の格差から、折り合いをつけることは出来ず、話は、具体的な進展を見せなかった。

3)対アジア(中国)戦略

7月28日、CAFTA法案が通過したことだけが、華々しく報道された。その一方で、中国貿易政策を厳しくモニタリングする法律が、通過したことも、目を留めておくべきである。CAFTAを通過させるために、中国への圧力を強めるということは、日本から中国への投資、及び、中国から日本製品の米国への輸出に対する牽制でもある。なお、FTAA締結目標とされている2005年という指標は、APECのボゴール宣言によるAPEC域内先進国の貿易自由化目標2010年に対して、より早い米州域内の自由化を達成しようということで、設定されている。


II.今後の課題

1)長期戦が予想される法案発効

今回、米国にて、CAFTA法案が、通過し、批准されることとなった。しかし、中米各国で批准されるまで、どのくらいの時間がかかるのか、いまだに不透明である。ちなみに、メキシコと中米北部三カ国(グアテマラ、エルサルバドル、ホンデュラス)との自由貿易協定は、合意から発行まで、数年かかっている。今回のCAFTAが、FTAAを念頭においていること、また、貿易相手国が、メキシコよりも、はるかに影響力の大きい米国であることから、中米域内でも早く批准されるという見方もある。しかし、下記の社会的課題に対しての取り組みが、見られないと、長期戦も予想しうる。

2)NAFTAの残した社会的課題

NAFTAは、特に米国からメキシコへの直接投資増加をてこに、メキシコから米国への製造業の輸出を飛躍的に増加させた。そのことが、より、緊密なメキシコと米国の政策協力を促し、メキシコの信用力向上にも、寄与した。その一方で、メキシコの貧しい農業セクターは、米国の農産品輸出に対してなすすべなく廃業に、いたった。彼らは、大都市へのあてなき国内移動、または、米国への不法移民としての入国を選び、社会不安、失業率増大などを引き起こしている。既に、各研究機関のCAFTA分析でも、同様の社会的課題が、指摘されており、中米各国でCAFTAを批准するためには、政治家の政治的リスクを受け入れたリーダーシップが必要となる。各国のカトリック、学者などの有力なグループの反対に対しての説得も必要である。

3)対南米政策

FTAAを進めていくうえで、必要なメキシコ及び中米を自由貿易協定でまとめるのは、第一歩であり、今後、難しい南米の切り崩しが、待ち構えている。今年の米州機構(OAS)事務総長選では、最終的に南米の推すチリのインスルサ内相に鞍替えして、米国は、自国擁立候補が、敗れるという事態を防いだ。7月末の米州開発銀行総裁選は、危なげなくコロンビアのルイス・アルベルト・モレーノ駐米大使が選出されたが、チリとコロンビアを除く南米グループを切り崩す道のりは、平坦でない。


III.コメント

1)中米にとっての米国との自由貿易協定の意義

既に8割の米国への輸出は、各種優遇税制のため、恩恵を受けており、短期での目覚しい中米諸国にとっての影響は、ないと推定される。しかし、長期的には、米国からの直接投資をてこにした技術移転および輸出拡大が、期待されている。従来の優遇税制は、あくまでも米国からの一方的な恩恵供与であり、いつ米国議会で撤回されるかわからない不安定なものであり、投資誘致には、効果的でなかった。しかし、今回の協定は、二国間の取り決めであり、また、米国の駐米への関与を公言するものでもあることから、中米の信用改善に寄与するものとされる。

2)国際機関の協力

上記のような積極的な側面の反面、NAFTAにおけるメキシコ農民の生活が不安定になったことと、同様な問題が中米で起きるものとされている。そのため、世界銀行の中米ユニットでは、昨年、CAFTAの中米農業・水産セクターへの否定的な見解を発表している。しかし、今年6月のウォルフォビッツ総裁への交代により、「CAFTAは、教育、保健といった社会的側面に配慮し、農業セクターの競争力を高めることで、地域の成長に寄与する。」とし、CAFTAを成功させるために弱点とされた分野への援助を強化する方向に論調が動いている。

3)小国の開発戦略

中米のような小国が開発戦略を描く上で、どのように世界市場につながり、経営資源(技術、情報、資金、人材)の競争力を高めていくか、というテーマは、重要課題である。BRICSまたは、それに順ずる大国(例:メキシコ)と異なり、国際社会での発言力をもたない小国は、機動力を生かして機を見るに敏な政策決定を行うことが、数少ない武器の一つである。今回のCAFTAも、米国での批准を受けて、ボールは、中米諸国に渡った。批准を引き伸ばして、批准のための対価を高めるのもよいが、延ばしすぎて、機を逸すると、まったく外交カードとしての意味を失う。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home


Click Here