2005/10/03

平和構築:国連での議論

ニューヨーク国連フォーラムの皆様 初めまして。現在国連代表部経済部にて専門調査員をしております、山内と申します。本日は、「平和構築」の問題に関し、国連において行われてきた議論を可能な範囲で皆様と共有したいと思い投稿致しました。皆様と認識が異なる点があるかもしれませんが、有意義な議論のベースになれば幸いです。宜しくお願い致します。

今般採択されたサミットの成果文書の大きな成果の一つは、「平和構築委員会」の設置であると言われています。成果文書においては、平和構築において、「調整され、一貫性のある、統合的なアプローチ」が必要であると強調された上、国連がそこで重要な役割を果たすことができるとして、「平和構築委員会」を設置することが決められました。以下は、「平和構築委員会」に至るまでの平和構築を巡る議論の流れについて、私なりの見方を記したものです。

【平和構築に対するアプローチの変遷】
そもそも、平和構築が国連において最初に注目されたのは、1992年、当時のガリ事務総長が発表した「平和の課題」であったと言われています。「平和の課題」においては、紛争が始まる前の予防外交、紛争が始まった場合のpeace-making及びpeace-keeping、そして紛争が終結した後のpeace-buildingという流れが示されています。平和構築は、この流れのなかで、平和維持に続く活動として捉えられています。2000年に国連の平和活動の包括的な見直しを行ったブラヒミ報告が発出されます。同報告においては、平和構築は、紛争が未だ終結していない初期の段階から平和維持と並んで不可欠な取り組みであると考えられます。ここでは、平和維持と平和構築は同時並行で取り組むべき課題と捉えられ、両分野が「統合」した形で行われる必要性が指摘されています。

2004年、国連改革の議論の基盤となるハイレベル・パネル報告が発出されました。ハイレベル・パネル報告は、平和構築についても新しい考えを示しています。特に注目すべきは、(1)国際社会は、国家が紛争に陥ることを防ぎ(紛争予防)、また、紛争から立ち直ることを支援する義務があるとした上で、国連には紛争予防から紛争後の復興までを一貫的に支援する制度がないことを指摘したこと、(2)このような制度的なギャップを埋めるためのツールとして「平和構築委員会設置」を提案したこと、(3)この提言を通じて、平和構築概念を従来の紛争後の活動から、紛争予防を含むものに拡大したことです。両報告を受け、2005年、国連事務総長は、「In Larger Freedom」を発出しました。ここで、国連事務総長は、平和構築に関しパネル
が提起した問題意識(国連システム上の深刻なギャップの存在、平和構築委員会の設置)を共有します。しかし、事務総長は、平和構築委員会が早期警戒的な機能を持つことを否定し、ハイレベル・パネル報告が提案した紛争予防を含む平和構築の拡大された定義を退けています。

【統合問題と平和構築】
先ほど、ブラヒミ報告が平和維持と平和構築の「統合」が必要であると指摘していると紹介しました。この「統合」の議論の根底には、安全保障分野が人道・開発と密接に関連していること、つまり、政治的安定や治安状況の改善無しには復興・開発は困難であり、逆に復興・開発の進展無くしては、政治的安定・治安状況の改善も期待出来ないという認識があります。ここから、安全を追求する活動と復興・開発のための活動との密接な連携が必要という結論が導かれます。安全のためのPKO等の活動と人道・開発のための国連機関の活動の間の密接な連携、これが「統合」という概念の意味と考えます。

それでは、このような「統合」は、国連において如何に実施に移されてきたのでしょう。1997年、アナン事務総長は、国連が新たな課題に効果的に取組むための改革を打ち上げました。本部では、人道・開発・平和と安全の3つの分野で国連事務局関係部局と国連諸機関の調整メカニズムを立ち上げましたが、このうち「平和と安全理事会(ECPS)」を主催する政務局を平和構築のフォーカルポイントと認定しました。事務総長としては、平和構築については、政務局を中心とした体制により国連システム全体を「統合」しようとした訳です。しかし、政務局とPKO局、UNDP等との間で協力関係が上手く築けなかったこともあり、実際にはうまく機能しなかったと言われています。

一方、現場レベルでは、1997年の国連改革の一環で、事務総長特別代表(SRSG)の指導権限を強化し、SRSGを中心とした平和構築活動の統合を目指しました。これ以来、SRSGが、PKOを超えて、常駐調整官、人道調整官を通じ、平和構築に関わる活動の調整を行うことが幅広く認められるようになっています。(実際は開発及び人道支援活動を経験したDSRSGがRCやHCを兼ねることで活動の調整が行われています。)このような「統合」は、最近、さらに進化を見せています。例えば、スーダンのPKO(UNMIS)においては、DDR分野などで統合が深められています。また、シエラレオネにおいては、PKO撤退後に新たに平和構築ミッションが設立されますが、ここではミッションの長がRCやHCを兼ね、また、カントリーチームがミッションの一部となるなど統合に向けて画期的なアプローチが試みられています。

【平和構築委員会構想】
私は、平和構築委員会構想とは、このような国連における平和構築に対するアプローチの変化、「統合」への取り組みが新たな形で結実したものと考えます。平和構築委員会とは、国連本部において、加盟国を巻き込んだ形で、平和構築に関する「統合」を行う試みです。そこでは、安保理、経社理、ドナー、要員派遣国、国連機関、国際開発金融機関が当該国や地域関係国・機関と一体となって、平和構築問題を様々な角度から総合的に検討することが想定されています。委員会の具体的な活動について、私なりに成果文書が掲げているものを整理すれば、次の3つに大別されると思います。
(1) 紛争国との関係で、その国の復興・開発の戦略づくりを支援すること
(2) ドナーや援助機関との関係で、資金手当てや援助活動の調整を行うこと
(3) その紛争国に対する国際社会の関心を持続させること

成果文書は、委員会について述べた後、委員会を支援する平和構築支援オフィス、平和構築のための常設基金についても言及しています。支援オフィスや常設基金についての成果文書での扱いは大きくはありませんが、平和構築委員会の活動を支えるものとして重要です。委員会の活動が効果的に行われるためには、支援オフィスによるノウハウの提供が欠かせないと思います。また、常設基金が緊急に必要な平和構築活動への拠出を可能にすることで、委員会の活動は大いに助けられるでしょう。私は、平和構築支援オフィスと常設基金が委員会とセットになってこそ平和構築委員会構想が所期の目的を果たせるのではないかと考えています。

平和構築委員会は、理想的に機能すれば、個々の紛争案件において、現地状況を踏まえた平和構築のニーズを総合的に把握し、これに必要な資金手当を調整し、また、安保理に的確な助言を行うなど、平和構築に関する具体策を打ち出すことが期待されています。さらに、安保理に対し情報提供や報告が行われた結果、安保理による適切なフォローアップも期待されます。しかし、平和構築委員会の設置は支持されているものの、成果文書の審議において、メンバーの構成と選出方法、委員会の国連における位置づけ、委員会の助言はどの機関に対して行うべきかなど細部に入ると異論が続出し、各国の意見が収斂していないのが現状です。この最後の2つの点については、ハイレベル・パネルが安保理による平和構築委員会の設立を提案し、また、“In Larger Freedom”が委員会の報告が「まず、安保理に対し、ついで経社理に対し」行
われることを提言するなど、委員会の活動が主として安保理との関係で捉えられていることを思い起こす必要があります。成果文書を巡る議論においては、このような考え方を支持する先進諸国に対し、いくつかの途上諸国が総会や経社理による関与の拡大を求めたため、議論が紛糾したと聞いています。このように、委員会の活動のモダリティについて、加盟国の間で意見が対立しているなかで、成果文書が示すように12月末までに平和構築委員会が立ち上がるためには、更なる努力が必要です。サミットが平和構築委員会の設立を決定したといえ、その前途には多くの問題が控えているのが実情です。

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