2004/12/31

インド洋の地震と津波被害に国連はどう対応しているのか

皆さん、ユニセフの久木田です。

大変なことになりましたね。現時点でも死者が10万人を超え、被災者は数百万人に達する未曾有の被害が出ています。今後保健サービスや飲み水の供給などが遅れると伝染病の拡大で被害はさらに大きくなります。このような事態に国連はどう対応しているのでしょうか。ニューヨークのユニセフ本部から見えるところを報告します。

私が大きな地震がスマトラ沖で発生したのを知ったのは、26日日曜日自宅でいつものようにウェッブのニュースを見ていたときです。BBCのBreaking Newsでした。早速、ユニセフのイントラネットにつなぐとすでにユニセフ緊急オペレーション・センター(OPSCEN)から五通の報告メールが入っていました。津波の被害が広がると、瞬く間に各国のユニセフ事務所からSituation Report(状況報告)が入り始めました。Sitrepのフォーマットはどこも同じで、状況、ニーズ、政府の対応、ユニセフの対応、国際社会の反応、それに職員の安全確認などが一日に二度以上出てきます。

ユニセフではCore Commitment for Children in Emergencies (CCCs)という緊急時に子どものために行う最低限のコミットメントと初動原則があり、48-72時間以内に行うこと、最初の6-8週間に行うことが決まっています。 <http://www.unicef.org/emerg/files/CCCEMERG_E5.pdf> また、各国の事務所ではEmergency Preparedness Planというのが毎年策定され、緊急時に即、的確に反応できるようにしてあります。ほとんどの場合、以下のようなパッケージが子どものために必要になりますので、すぐにある程度の量を発注しますし、人と資金の手はずを整えます。(はしかの予防接種、必須医薬品と緊急保健キット、強化栄養食品、毛布やテント、調理具、飲み水、殺菌用漂白剤、水入れ、石鹸、トイレ、子どもの保護、家族との再会、学習空間、学習キット、登校の再開)

翌日27日月曜日、休暇を返上して本部に入りました。いつもより少ない人数ですが、すばやく動いています。9時に緊急幹部会議があり、朝7時の被災国事務所、地域事務所、ジュネーブとを結ぶ電話会議をもとに対応策が話され、今後の方針が確認されました。私のセクションでも9時半にブリーフィングがありました。10時には日本政府国連代表部から電話があり、各国連機関の状況分析、対応、今後の活動などについて、夕刻までに報告してくださいと言う依頼がきました。12時前には、スリランカ、インドネシア、モルジブ、マレーシア、東アジア太平洋地域事務所からの報告をまとめて代表部に送りました。夕方までに入ったインドを含めたUpdateを代表部の送りました。

28日火曜日には、だんだんと各国の状況がわかってきましたが、被害が大きかったと思われるインドネシアのアチェやミャンマーの南部、アンダマン・ニコバール諸島などの様子がまだよく分かりません。スリランカ、インドネシア、モルジブについては、至急必要な支援の内容が送られてきました。スリランカでは、ベルギー空軍の輸送機を使って、ドバイにある緊急用倉庫から45トンの緊急物資を輸送する手はずを整えました。緊急支援では状況判断が必須ですが、すべてが分かるまで待っていては手遅れになるので、ユニセフ事務所は所長の判断で、手持ちの資金や物資の一部を使って即支援を始めることがあらかじめ許可されています。国連全体としても、またユニセフにも緊急用の回転資金があり、すぐに対応が必要なときにはこれを使って、ドナーからの資金援助を待ちます。この日、日本からの31億円の支援の表明があり、緊急援助隊の派遣も決まり、スリランカには一番乗りをしました。

国連内の緊急援助調整システム

緊急事態で必要なのは、まずどう対応するか、これまでの経験に基づいて作られた基本原則と、支援ニーズや輸送やコミュニケーションなどの支援実施に関する情報と判断です。この情報収集は、様々な機関がそれぞれ行うと同時に、情報を取りまとめ使いやすくまとめる機能が必要になります。国連では、人道問題調整官事務所(OCHA)がこのような事態の全体の調整を行うことになっていますが、OCHAはreliefwebというサイトを運営して、緊急時の情報提供もしています。<http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf> ここに行くと各機関からの報告をとりまとめた状況のアップデートや分かりやすい地図などが手に入ります。

さらに各国では、国連のResident Coordinatorシステムがあり、その下で、UNDP, UNICEF, WFP, WHO、UNHCRなどすべての国連機関がUN Country Teamを形成し、協力と調整をしています。緊急時にはUNCTが共同で状況分析を行い各機関の対応を決めます。今回のように大きな事態の場合は、国連本部からのチームが派遣されUNCTと状況分析をします。

状況分析が進むと各機関はそれぞれのアピールを用意し、それをOCHAがまとめて、国連の統一アピールが出されます。現在の予定では、1月5日にアピールがまとまることになっています。ただ今回のように一刻を争う事態のときは、ドナーからの支援をアピールが出る前に受け取ることもできますし、正式アピールの前にDonor Alertを出して、状況の説明や支援ニーズなどを伝えることもできます。ユニセフの場合にはCCCsがありますので、国連内の調整プロセスに従う一方、できることを平行して行うというのも事実です。

さて、このようにして支援が届きだすと、人や物資をどのようにどこに送るのかが問題になります。緊急物資のうち、食料についてはWFPが中心になり計画します。また、それ以外の保健、水、衛生、教育などの物資の調達はユニセフが中心になります。様々な物資を受け入れから、判別、貯蔵、搬出するには専門の知識が必要なので、国連ではJoint Logistics Center(JLC)を組織して大規模な支援活動のロジを調整しています。<http://www.unjlc.org/content/index.phtml/itemId/5478> たとえば、コロンボでは、物資を搬入した輸送機は駐機を許されませんから、そのための輸送プランを出させるようにしています。また、インドネシアのメダンはパンクしそうですし、ジャカルタもそうなりそうなので、クアラルンプールとバンコクにまず搬入し、マレーシアとオーストラリアのC130を使ってバンダ・アチェやメダンにピストン輸送するというようなアレンジをやっています。

このような緊急時には経験のある人材が必要ですが、それを確保することも各機関には必要になってきます。ユニセフでもこのような事態のために登録制度があり、短期的なサージ・キャパシティーを確保していますが、今回のような広範で大きな緊急事態ではそれ以上の人が必要です。ユニセフではそのため、非常事態宣言を内部で行い、人と資金とサービスの優先順位を変えました。余談ですが、緊急時に困ることに、役に立たない人や組織が善意と好奇心で押し寄せることです。大変なときに、このような人々にどう対処するのかも緊急時のノウハウのようです。役に立たない物資と言うのもあって、これもこまります。たとえば、ムスリムの国にとんこつラーメンのような。

さて、この未曾有の事態、年末年始もありません。また、報告いたします。

久木田

2004/12/25

南々協力のための国連デー記念行事の報告

UNDPニューヨークの粒良麻知子です。クリスマス、いかがお過ごしでしょうか。

先日ご案内しました、「第1回南々協力のための国連デー:南々協力を通じたMDGsの達成」記念行事が12月20日(月)に国連本部で開催されました。ゼフリン・ディアブレUNDP副総裁の祝辞とワンガリ・マータイ女史の基調講演の内容を簡単にご報告させていただきます。なお、各スピーカーの講演内容は以下のウェブサイトに掲載されています。
http://tcdc.undp.org/

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1)ゼフリン・ディアブレUNDP副総裁
これまでは二国間協力が主流であった南々協力は、近年、地域内での多国間協力が進んでいる。また、IBSA(India、Brazil、South Africa)のように地域を越えたよりダイナミックな南々協力も出てきている。1970年代に始まって以来、南々協力は南北関係を補完するものと捉えられてきたが、先進国は、途上国への支援(援助額増加、市場の開放、技術移転など)を一層強化していく必要がある。

また、G77議長のAbdulaziz Al-Nasserカタール大使も、南々協力では多国間協力がトレンドであると述べた。

2)ワンガリ・マータイ女史の基調講演
A.平和構築・持続的な資源管理・民主的ガバナンスのリンケージ
マータイ女史が今年ノーベル平和賞を受賞したことにより、平和構築・持続的な資源管理・民主的ガバナンスのリンケージに着目した包括的なアプローチが再び注目されるようになった。資源が持続的、公平なやり方で管理・共有されなければ、また、政府が民主的で人権・環境に配慮しなければ、平和は脅かされる。これは3つ足の椅子のようなもので、足がひとつでも欠けると崩れてしまう。この3つが確保された時に国際社会の支持も得られる。

B.グリーンベルト運動
マータイ女史が1977年から始めたグリーンベルト運動の開発アプローチは、村の女性でも容易に理解し、実践できるステップにまとめられている。プロジェクトを実施する女性たちは、MDGsの達成のために活動しているわけではなく、自分たちが生活していく上での基本的ニーズが何かを明らかにし、それを満たすために活動しており、その結果としてMDGs達成に貢献している。グリーンベルト運動は植林活動であるが、これを通じて、女性のエンパワメントが進められている。また、成人女性のみならず、男性や子供も参加している。

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アフリカにおける資源管理と紛争予防の関係、植林活動を通じて人々のキャパシティを強化するというアプローチについて、これまで具体的な成果をあげてきたマータイ教授のメッセージには説得力がありました。本イベントに参加された方はどのような感想をお持ちになりましたか。

皆様、よいクリスマス&年越しを。
粒良麻知子

2004/12/19

UN at crossroads

UNDP総裁のMMB(と私たちは呼んでいます)が先週サンフランシスコで行ったスピーチが、アメリカと国連の関係、セキュリティと貧困についてなど分かりやすく書いていて示唆に富んでいると思うので、ご紹介します。
http://www.undp.org/dpa/statements/
administ/2004/december/13dec04.html
国連にとっては来年は国連改革、MDG進捗状況などいろいろとチャレンジな年なのかと思います。また、日本やアメリカの人々に世界の状況を伝えて認識を広げることが大切だなと読んで思いました。
-- 小西洋子UNDPカンボジア

2004/12/10

援助の「質」と「量」

鈴木様、皆様、
WHOの早川です。「量」と「質」の議論はいろいろなところで繰り返されていると思いますが、やはりどちらかというと「量」に強調が置かれがちなのではないかという印象を受けます。これは、日本に限った事ではなく、他の先進国でもみられる傾向だと思われます。まあ、実際、現行の援助システムを大幅に変えることなしで援助の量を増やすべきだというのは、分かりやすい政策議論であり、コンセンサスも取りやすいのかもしれません。例えば、現行のシステムから恩恵を受けているグループ(コンサル、商社、NGOなど)には援助の「アンタイド化」へ賛成するインセンティブのようなものが〈短期的には〉ないと思われます。
確かに「量」も「質」もともに追求するのがベストではありますが、ODAの大幅な増加が難しい中で、「量」、「質」の二者同時追求という議論が、「質」を改善しない口実に使われるのでは、と思ったりもします。やはり、、増加が期待できないからこそ「質」の改善をはかるというのがセカンド・ベストとなるのではないでしょうか。
「0.7%」に関して言えば、他のドナー国がやっているように、とりあえず10年後には達成しますというようなことを公式に宣言してしまえばよいのではないかと思いますが、日本国内ではどのような議論がされているのでしょうか。
最後に、NGOアドボカシーもよく援助の量に焦点を置きがちですが、最近Oxfamから発表された報告書"Paying the Price"は日本を含む先進国ドナーの援助プラクティスの質的問題にも細かく触れていましたのでリンクを紹介させていただきます。http://www.oxfam.org.uk/what_we_do/issues/debt_aid/
mdgs_price.htm?ito=1721&itc=0
早川

2004/12/09

安保理改革:日本の常任理事国入り

皆さん、

今日、天皇誕生日のレセプションに参加しました。夕刻の国連本部に訪問者用の入り口から入り、四階のDelegates' Dining Roomに到着すると、各国代表団や国連職員の長い列ができていました。原口国連代表部大使夫妻にご挨拶して入ると、大きなホールはほぼ満員でした。イースト・リバーを前にしたすばらしい夜景を横目にたくさんの方にお会いしました。様々な話題が飛び交いましたが、トップは安保理改革、次点は国連フォーラムでした。

ハイレベル・パネルの報告書が出たあとでしたし、昨日のNHKのニュースでアナン事務総長と会談する原口大使を見たばかりですから、私の話も安保理改革に向いたようです。報告書についての意見を求められたのですが、「安保理の組織改革についてはA、B、二案ありますが、理事国を24に拡大することでさらに多くの総意が得られることが一番のミソでしょう」とやや月並みな答えになりました。

A案は「拒否権無し常任理事国」を6カ国追加、後は地域割りの代表によるローテーションですから、常任理事国入りできない国の反対や地域内の競争で合意が難しいかもしれません。B案は常任理事国の追加なし、「半常任理事国」8カ国と11カ国のローテーションですから、常任理事国入りをめざす、日本、ブラジル、インド、ドイツの四カ国は反対でしょう。いずれにしろ、このような具体的な案が検討され、古くなってしまった安保理の構造を21世紀に適したものに変えていくなどという機会はそう何度もないでしょうから、来年秋の総会では3分の2以上のの賛成を得て、総意の得られる改革を行ってほしいものです。

その中で、日本など4カ国が目に見えるキャンペーンをやっていることは大変印象強く思います。北岡大使も来年の日本の安保理入りを控えてウォーミング・アップが進んでいるようでした。プーチン大統領がインドの常任理事国入りを支持したり、これからいろいろな動きがでてくるのでしょう。2005年が楽しみです。

ところで、国連フォーラムについてたくさんの方から励ましの言葉をいただきました。最後に原口大使にお礼を述べたときも、「フォーラム見てますよ」と声をかけてくださいました。大使、ありがとうございました。

ユニセフ 久木田

2004/12/06

[国連改革]保護する責任

皆さんこんにちは

 ハイレベルパネル報告書について議論しましょう、と言い出した張本人ですので、問題提起させて頂きます。

 日本政府的には、安保理改革に焦点があたっている今回の報告書ですが、私が注目しているのは、武力行使はどのような場合認められるか、という部分です。報告書で言うとPart 3, Collective security and the use of forceの、IX. Using force:rules and guidelinesの部分です。この中で、保護する責任論(Responsibility to Protect)が展開されており、注目に値すると思います。保護する責任論はご承知の通り、2001年にInternational Commission on Intervention and State Sovereigntyが出した報告書の内容なのですが、それがようやく認められた、ということになるかと思います。無論その背景には、ICISSの委員長だったエバンス元豪州外相が今回ハイレベルパネルの委員だった、ということもあります。

 今回のハイレベルパネル報告書では、武力行使が認められる場合として、5条件あげており、Seriousness of threat, Proper purpose, Last resort, Proportional means, Balance of consequencesがあげられています。これもほとんど保護する責任の報告書で提言されていることと内容的に同一であると思います。保護する責任の報告書では、large scale loss of life, large scale 'ethnic cleansing'の場合に、Right intention, Last resort, Proportional means, Reasonable prospectsの条件の下で介入が認められる、としています。

 今後はこの問題は国連加盟各国が明年以降議論することになるわけですが、問題は、これは果たしてグローバルに受け入れられる考えなのでしょうか。途上国側、特に中南米においては、依然として介入に対する警戒感はあるでしょう。そもそも保護する責任の報告書が出て受け入れられるまでにこれだけ時間がかかったということは、それだけ抵抗感が強かったと言うことでもあると思います。一方、米国としては、武力行使にこれだけの条件を付けられて制約を加えられることに対しては否定的なのではないか、とも思えます。
 日本政府の対応は、今後国内で議論されていくことになるでしょう。法律的に見ても面白い問題であり、かつ政治的にも難しい問題であると思います。

外務省国際社会協力部政策課長 南  博


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